『電車男』考 HATENA RE・EDITION
映画版『電車男』──。
この腑に落ちない感じは何だ? しかし、みごと大ヒットになった。のだから、「お前は考え過ぎだ」と言われているようでもある。いやもちろん、近ごろまれに、ピュアな感情を思い出させてくれる映画であったことは否定しない。
現在を舞台に、こんな感情を呼び起こす映画をつくるのは、かなり難しいはず。この手があったか。この原作があったか。といった感慨はある。
でも、単純なわかりやすさを持ってはいない。と私は見た。つくった側の意図なのか、無意識なのか。没入を阻む何かを私は感じた。ので、泣けはしなかった。私は、原作を読んでいない。ただ、だからというわけでもなさそうで。
この「考え過ぎ」の正体は何だ? 「はてな」の方でまとめた感想をもとに、他の方のBLOGを巡ってみることにしたのだった。
(以下ネタばれを含みます。鑑賞後にどうぞ)
やや感情移入をそがれたのは、よく分からなかった点があるからだ(下記)。
・クライマックスを含め、演劇的な見せ方をするのはよいとしても、あのどこまでも続く線路のようなトンネルのような道具立ては、何らかの表現意図があったのか。線路(トンネル)を軸に、誰も居ないホームをシンメトリー構図で見せたショットがあるが、象徴性が強い割には物語展開(世界)とリンクしていないような…。
・その線路を挟んで「励まし」が飛ぶ場面。苦肉の策なのかもしれない。にしても、なぜ対岸(彼岸)に泣き別れているのか。しかも、そこに居る人たちの生気の無さはどうしたことか。リアリティーに着地していない2ちゃんねらが、ネット空間からの電車君の出立を祝福しているのか。そんな単純なものじゃなさそうだし…。
・ラストの処理でさらに混乱する。一見よくあるオチ。けど、あの描き方だと、掲示板上の応酬すべてを仮構のものとして葬ったように見えてしまう。電車君を都市伝説的な存在として消失させるのなら、分からなくはない(上等ではないが)。しかし、それなら夢見る主体は、エルメス(似の乗客)か脇の少女にするのが筋合いじゃ…。
一方、映像表現(*1)の観点からもすっきりとしない。
「掲示板の書き込みとスプリットスクリーンを使ったオプティカル的(現実にはデジタル)な処理」(1)は、序盤は好調。さすがに少し単調かなと感じ始めた直後くらいから、その手法は撤回される。以降、テキストベースの“掲示板空間”をどう表現するのかと思えば、線路を挟んだホーム上で繰り広げられる「演劇的な処理」(2)が登場する。そして、クライマックスは、アキバでの「サイバーな3Dグラフィックス(+アスキーアート)を使ったデジタル的な処理」(3)…。
映像はよく出来ているんだけれど、どんどんネット空間に対する没入感(耽溺感)が深まっている。(3)(2)(1)と逆にたどるのが、本来正解なのではないか。その上で、あのスプリットの中の個々人にディテールアップしていった方が、希薄な現実感と薄弱な人間関係からの回復、ネット・アディクショナルな生活からの退避、といったテーマを伝えやすかったのではないか。…え? そんなテーマじゃない?
確かに。応援に回っていた2ちゃんねらたちが、最後に真実みの強いセカイに還ってくるような気配を見せるので、「それじゃ安易では…」と思った瞬間に、あのラストに移行する。ただ、それでもいいんだけど、どうも描ききれていない、釈然としない感が残ってしまった。必ずしも割り切れなくていいんだけれど、それが余韻になっているわけでもないという半端さがあって…。
山田孝之と中谷美紀の二人は、当初のキャスティングイメージがそのまま実現しているということだが、それでも制作サイドとしては、商業性の面で不安を持っていたのではないか。いくらベストセラーといっても、ストーリー自体はシンプルだし。そこを心配した結果なのか、映画として「加工品」(*2)の度合いが強くなりすぎてしまっているように私は感じた。
主演の二人は、おたくキャラと菩薩キャラをとてもナイーブに演じていて素晴らしい。この二人の力と、安定した演出力、それに(1)のオプティカル的な処理(より洗練させる余地はある)のみをバランスよく配するぐらいに収め、もっとスマートに描いていれば、青春映画としてのマスターピースになりえたのではないかと思うが。
ちょっと余計な意匠を盛り込みすぎ。言い換えれば、この原作が多くの人に読まれたという事実を正面から受け止めた上で、演技と演出(映像演出でなくてドラマ演出)に対する信頼を、制作サイドはもっと持つべきだった(あるいは監督は自信を持つべきだった)。というのが目下の私の判定。
*1 スプリットスクリーンに360度パン、そしてクライマックスの“花火”。意識したものなのか否か、ブライアン・デ・パルマっぽかった。電車であのラストだと、ある意味『カジュアリティーズ』だし。おたくの恋の成就、といったテーマもデ・パルマと無縁ではない。
*2 山根成之監督による純愛映画の傑作『愛と誠』。あの映画が持っていたような“けれん”くらいで、加工の程合いとしては十分に効果的かつ印象的、そして邪魔にもなっていなかったんじゃないか、と。どうもこの映画には「空白恐怖症」のような傾向があって…。
(鑑賞:2005/06/17,ワーナー・マイカル・シネマズ市川妙典)
さて、とりあえず、ココログを閲覧してみたのだが、私のような躓き方をした人は、あまり居ないようで。追って検索結果を加えます。(2005.06.21暫定版)
・参照Blog(作品総体でなくPOINTに対する評価を私見で読み取りました)
○:肯定的 ×:否定的 2005.06.21暫定版
◇POINT 物語の展開
かのこの劇場メモ~半券の余白 映画「電車男」を見る (×)
◇POINT 板の視覚化
行者のログ道★迷い筆 電車男【祈りの映画評】 (×)
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